大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和54年(し)29号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四三三条の抗告理由にあたらない。

なお、本件においては、刑の執行猶予言渡の取消決定に対する即時抗告棄却決定が執行猶予期間経過前に申立人に対し告知されたことにより、執行猶予取消の効果が発生しているので、本件特別抗告の係属中に執行猶予期間に相当する期間が経過したことは、原決定を取り消すべき事由にはならない(当裁判所昭和四〇年(し)第二一号同年九月八日大法廷決定・刑集一九巻六号六三六頁、同昭和四九年(し)第六号同年二月七日第三小法廷決定・裁判集刑事一九一号八三頁、同昭和五〇年(し)第一〇九号同五一年二月二〇日第一小法廷決定・裁判集刑事一九九号三〇九頁参照)。

よって、刑訴法四三四条、四二六条一項により、主文のとおり決定する。

この決定は、裁判官団藤重光の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官団藤重光の反対意見は、次のとおりである。

刑法二七条は「刑ノ執行猶予ノ言渡ヲ取消サルルコトナクシテ猶予ノ期間ヲ経過シタルトキハ刑ノ言渡ハ其効力ヲ失フ」と規定しているが、ここに「取消サルルコト」とは取消決定が確定することを意味する。刑訴法四三三条の特別抗告には執行停止の効力こそないが(同法四三四条、四二四条)、決定の確定を遮断する効力はあるのであるから(民訴法四一九条ノ二の特別抗告と異なる。同法四一九条ノ三、四〇九条ノ二第一項、四九八条参照)、特別抗告の係属中に刑の執行猶予の期間を経過したときは、刑の言渡は効力を失うものと解しなければならない。多数意見の援用する昭和四〇年九月八日大法廷決定・刑集一九巻六号六三六頁によれば、「原裁判所又は抗告裁判所である最高裁判所が右決定の執行を停止しない限り、右執行猶予を取り消した決定は、直ちに執行し得る状態になる」ことを理由としているが、このような「直ちに執行し得る状態」は確定的なものではなく、右大法廷決定自身もみとめるとおり、原裁判所または抗告裁判所が執行を停止することもできるのであり、さらにまた、取消決定そのものが抗告審である最高裁判所において取り消される可能性も存在するのである。取消決定の確定を待たないで執行猶予取消の効果が発生するものと解するのは、正当とはおもわれない(なお、右大法廷決定に付された奥野裁判官の反対意見をも同旨として援用したい。)。もともと執行猶予期間内に犯した罪については、執行猶予言渡の取消との関係で問題が多いのであって、それは改正刑法草案七三条二項のような立法措置によって対処するのが正道なのである。

本件についてみるのに、原決定がされた時点においては、本件執行猶予期間はまだ満了していなかったのであるから、原決定に違法はなかったものというべきである。しかし、本件特別抗告の係属中に右猶予期間の経過によって本件刑の言渡は失効したのであって、現時点においては、原決定は、いったん失効した刑の言渡の効力を復活させることになるから、取消を免れないものと考える。

(裁判長裁判官 藤崎萬里 裁判官 団藤重光 裁判官 本山 亨 裁判官 戸田 弘 裁判官 中村治朗)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例